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2025.04.18

前編 [Be Happy on Stage] ピアニスト大崎由貴さん 特別インタビュー

イベント
大崎由貴特別インタビュー登大路ホテル奈良

登大路ホテル奈良 レストラン ル・ボワでは、ピアニスト大崎 由貴さんによるサロンコンサートを定期開催しています。季節や行事にインスパイアされたテーマに沿って、クラシックから現代まで幅広いプログラムが展開されます。息遣いまで伝わる距離感だからこそ五感で味わえる繊細で情熱的な音の調べ。―― 演奏の合間にやわらかな口調で語られる、楽曲にまつわるエピソードや解釈が、ゲストの皆様を深い音楽体験へといざないます。

今回は、そんな大崎由貴さんにスタッフがお話を伺いました。

大崎 由貴 Biography

―まずは大崎さんの生い立ちから教えてください。幼少期はどんなお子さんでしたか? ピアノを始められたきっかけは
大崎由貴さん幼少期写真

(大崎さん) 両親は音楽家ではないのですが、聴くのは好きでよく家に音楽が流れていました。私も幼い頃からスピーカーまでハイハイして、正座でずっと聴いているような子だったそうです。絵本を読んでもらうのも好きで、自分で読むのも大好きでした。そこから想像して、頭の中でおはなしを作ったりしていました。とは言っても、おとなしくしているだけではなかったようで、手を引いておかないとあちこち走っていくから大変だったと母から聞きました。好奇心旺盛で、人と関わることも大好き、音楽も大好きでした。

幼稚園の年中の時、音楽が好きなのかなと察してくれた母が、近所のヤマハ音楽教室に連れて行ってくれました。音楽に合わせて、お友達と歌ったり体を動かしたりという感じですが、私は明らかにノリノリで楽しんでいたようで。小学校に上がるとき、ピアノを始めることになりました。実はそのとき、可愛い衣装に憧れてバレエもやってみたかったのですが、どちらか一つ自分で決めるよう言われ、当時なりに真剣に考えて、ピアノを選びました。
 
 

―初めての発表会から国立広島大学附属中学・高校時代は


(大崎さん) 小学校1年生のとき、発表会で平吉毅州(ひらよし・たけくに)作曲「チューリップのラインダンス」を弾きました。ビデオが残っているんですが、気合が入り過ぎて、途中で鍵盤からズルっと手が落ちて(笑)。でも、まったく気にすることなく落ちた手を戻して弾いていました。楽しさの方がまさって、緊張はしていなかったみたいですね。

初めての発表会

中学3年生のときに、ヤマハの広島センターから推薦してもらい、大阪の難波にあるマスタークラスに月1回通うようになりました。そこで出会った先生のおかげで音楽の奥深さを知り、さらにピアノが好きに。普通科の高校に通っていたのですが、ピアノを一生弾き続けたいという思いが強くなって、高校2年生のときにピアニストを目指し始めました。高3からは東京藝大の先生にも習い始めたので、2週間に1回、広島から関東や関西に新幹線で移動して……。移動中は学校の教科書を開くか、レッスンの録音を聞いて復習していました。今思い返すとこの頃が一番大変だったなぁと思います。応援、サポートしてくれた両親には感謝しています。
 
 

東京藝術大学を卒業、留学先で得たBe Happy on Stage

―東京藝術大学に現役で合格しました。葛藤やご苦労は?


(大崎さん) 広島では、同級生たちは部活や放課後ライフを楽しんでいて、少し寂しくもありました。でも、大学に入ってからはみんなが同じ音楽を専攻しているので、あのコンサート行こうよとか、このCDすごく良かったよと交換したり。毎日が楽しくて、たくさんの刺激を受けました。スタートが他の人より遅く、ギリギリで入学できたという自覚があったので、みんながすごいのは当たり前。そう思えば怖いものなしというか、他人と比較しての葛藤はなかったです。むしろ、こんなにすごい人たちがいるんだと、自分の環境が輝いて見えました。大変だったことも絶対あると思うのですが、基本的に嫌なことはすぐ忘れる性格なのであまり思い出せません(笑)。ひとつ挙げるとすれば、上京して人の多さと駅の複雑さになかなか慣れなかったことでしょうか。入試の当日、上野駅で反対の出口から出て道に迷い、歩いて10分もかからない藝大までタクシーで向かいました。東京に慣れたはずの今でも、よく道に迷います(笑)。

卒業式の写真

 
 

―卒業後、モーツァルテウム大学へ留学されました


(大崎さん) 東京藝大大学院に一旦入学したものの留学への思いがつのり、6月末にオーストリアのザルツブルクにあるモーツァルテウム大学を受験、10月から留学しました。結局、計5年半ザルツブルクで勉強し、モーツァルテウム大学修士課程を首席で卒業、令和2年度文化庁新進芸術家海外研修員に選ばれました。

留学時代

留学中は長期休暇になると、マスタークラスや国際コンクールに参加するため、ヨーロッパ各国へ行きました。レッスンやコンクール自体からの学びももちろん大きかったけれど、終わった後に世界各地から集まったコンテスタントと語り合ったり、その土地の一般家庭にホームステイをさせてもらったり。様々な価値観や生き方に触れる体験は、人生の宝物になりました。一方、もっと自分自身を理解して、表現しないとダメなんだと痛感。ホームシックにもなりました。ザルツブルクの空は澄んでいて、高いんです。夜、学校から帰りながら、日本が遠いなぁと心細く思うこともありました。自分がどういう演奏家になりたいのか、どんな人生を歩みたいのか、自問自答を重ねました。留学して、心構えが変わりましたね。孤独な時間があったからこそだと思い

―留学時代の忘れられないエピソードは


修士課程の卒業リサイタルの時、演奏開始1分前くらいにバックステージに恩師ジャック・ルヴィエ先生が来てくださって、「Be Happy on Stage.」と一言だけ伝えて客席に戻っていかれたんです。先生はとてもストイックで、一音一音に妥協なく厳しい。だからこそ、厳しい耳で練習を積み重ねて、最後は楽しもう。全部忘れてBe Happy on Stageでいようと。それ以来、“Be Happy on Stage” が信条になりました。本当に尊敬する先生なんです。

ルヴィエ先生と

 
 

走ること、教えることから得たもの

―マラソンを始められたそうですね


(大崎さん) 時々、気分転換にランニングをしています。皇居の外周路を走る「皇居ラン」をしたり。変わっていく景色を見ながら、考え事をするのが好きなんです。走るようになって、演奏が力強くなったねと言われることが増えました。自分では走り終わったあとの爽快感が好きで走っていますが、この1年体調を崩していませんし、体力もついたかも。といってものんびり、ゆるランです。まだハーフマラソンまでしか走ったことがないので、いつかフルマラソンにも挑戦してみたい。「奈良マラソン」にも出てみたいです。

ランニング

 
 

―最近は大学で講師としてもご活躍です


(大崎さん) 東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校と愛知県立芸術大学で講師をしています。教えるようになって、学生さんの演奏をより良くするにはどうしたらいいか、一人一人に一番刺さる表現は何だろうと考えるようになりました。たとえば、「ここの右手はフルートだと思って弾いてみて」と言ってみたり。教えることで、自分の演奏や捉え方の癖が客観的に見えるようになり、私自身が一番学んでいる気がしますね。・・・(後編につづく)

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インタビューの後編はこちら

大崎 由貴 サロンコンサートの詳細はこちら

大崎由貴さん写真

大崎 由貴 Yuki Osaki プロフィール

広島市出身。
第18回東京音楽コンクールピアノ部門第2位(最高位)。第5回アルコバッサ国際室内楽コンクール(ポルトガル)最高位、併せてポルトガル作品賞受賞。
ソリストとして東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、群馬交響楽団、大阪交響楽団、広島交響楽団などのオーケストラと共演。
定期的に多数のソロリサイタルを行う他、弦楽器や管楽器奏者とのアンサンブルでも精力的に活動し、バロックから現代に渡るまで幅広いレパートリーを開拓している。
広島大学附属高等学校を経て、東京藝術大学音楽学部をアカンサス音楽賞、藝大クラヴィーア賞、同声会賞を受賞し卒業後、渡欧。ジャック・ルヴィエ氏に師事し、ザルツブルク・モーツァルテウム大学修士課程を首席で卒業後、同大学ポストグラデュエート課程を修了。令和2年度文化庁新進芸術家海外研修員。
現在、愛知県立芸術大学ピアノコース、東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校にて非常勤講師を務める。

大崎 由貴 オフィシャルWEB